についた時は、もう朝であった。筍を渡すと、三十円呉れた。腹巻の底へしっかりいれて、ちょいちょい押えてみんことにゃと金造にいわれたことを思い出し、そのようにした。ふと、これだけの金があれば大阪へ行ってまむし[#「まむし」に傍点]や鮒の刺身がくえると思うと、足が震えた。空の車をガラガラひいて岸和田の駅まで来ると、電車の音がした。車を駅前の電柱にしばりつけて、大阪までの切符を買い、プラットフォームに出た。電車が来るまで少し間があった。そわそわして決心が鈍って来るようで、何度も便所へ行きたくなった。便所から出て来ると電車が来たのであわてて乗った。動き出してうとうと眠った。車掌に揺り動かされて眼を覚すと、難波ア、難波終点でございまアーす。早う着いたなアと嬉しい気持で構内をちょこちょこ走り、日射しの明るい南海道を真っ直ぐ出雲屋の表へかけつけると、まだ店が開いていなかった。千日前は朝で、活動小屋の石だたみがまだ濡れていた。きょろきょろしながら活動写真の絵看板を見上げて歩いた。首筋が痛くなった。道頓堀の方へ渡るゴーストップで交通巡査にきびしい注意をうけた。道頓堀から戎橋を渡り心斎橋筋を歩いた。一軒一軒
前へ
次へ
全49ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング