飾窓を覗きまわったので疲れ、ひきかえして戎橋の上で佇んでいると、橋の下を水上警察のモーターボートが走って行った。後から下肥を積んだ船が通った。ふと六貫村のことが連想され、金造の声がきこえた。わりゃ、伊勢乞食やぞ、杭(食い)にかかったらなんぼでも離れくさらん。にわかに空腹を感じて、出雲屋へ行こうと歩き出したが方角が分らなかった。人に訊くにも誰に訊いて良いか見当つかず、なんとなく心細い気持になった。中座の前で浮かぬ顔をして絵看板を見上げていると、活動の半額券を買わんかと男が寄って来た。半額券を買うとは何の事か訳が知れなかったから、答えるすべもなかったが、これ倖いと、ちょっくら物を訊ねますが、出雲屋は? この向いやと男は怒った様な調子でいった。振り向くと、なるほど看板が掛っている。が、そこは順平に連れてもらった店と違うようだ。出雲屋が何軒もあるとは思えなかったから、狐につままれたと思った。しかし、鰻を焼く匂いにはげしく誘われて、ままよとはいり、餓鬼のように食べた。勘定を払って出ると、まだ二十七円と少しあった。中座の隣の蓄音機屋の隣に食物屋があった。蓄音機屋と食物屋の間に、狭くるしい路地があっ
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