、我慢して丸亀の跡をつぎ、文吉を迎えに行かねばならぬと思った。癖で興奮して、出世しようしようと反り身になって歩き、下腹に力をいれると、いつもより差し込み方がひどかった。
名ばかりの亭主で、むなしく、日々が過ぎた。一寸の虫にも五分の魂やないか、いっそ冷淡に構えて焦らしてやる方が良いやろと、ことを察した木下が忠告してくれたが、そこまでの意気も思索も浮ばなかった。わざと順平の子だといいならして、某生徒の子供が美津子の腹から出た。好奇心で近寄ったが、順平は産室にいれてもらえなかった。しかし、産婆は心得て順平に産れたての子を渡した。抱かされて覗いてみると、鼻の低いところなど自分に似ているのだ。本当の父親も低かったのだが。
近所の手前もあり、吩咐られて風呂へ抱いて行ったりしている内に、なぜか赤ん坊への愛情が湧いて来た。しかし、赤ん坊は間もなく死んだ。風呂の湯が耳にはいった為だと医者が云った。それで、わざと順平がいれたのであろうという忌わしい言葉が囁かれた。ある日、便所に隠れてこっそり泣いていると、木下がはいって来て、今まで云おう云おうと思っていたのだが……とはじめてしんみり慰めてくれた。そうし
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