また腹痛になるとことだと思ったが、やはり田舎で大根や葉っぱばかり食べている文吉にうまいものをたべさせてやりたいと順平は思ったのだ。二円ほど小遣いをもっていたので、まむしや鮒の刺身を註文した。一つには、出雲屋の料理はまむし[#「まむし」に傍点]と鮒の刺身と、きも吸のほかは不味いが、さすが名代だけあって、このまむし[#「まむし」に傍点]のタレ[#「タレ」に傍点]や鮒の刺身のすみそ[#「すみそ」に傍点]だけは他処《よそ》の店では真似が出来ぬなどと、板場らしい物の云い振りをしたかったのだ。文吉はぺちゃくちゃと音をさせて食べながら、おそで(継母)の連子の浜子さんは高等科を卒業して、今は大阪の大学病院で看護婦をしているそうでえらい出世であるが、順平さんのお嫁さんは浜子さんより別嬪さんである。俺は夜着の中へ糞して情ない兄であるが、かんにんしてくれと云った。聴けば、金造は強慾で文吉を下男のように扱い、それで貯金帳を作ってやっているというのも嘘らしく、その証拠に、この間も村雨羊羹を買うとて十銭盗んだら、折檻されて顔がはれたということだ。そんな兄と別れて帰る帰途、順平は、たとえ美津子に素気なくされ続けても
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