理衣をきている順平の姿が文吉には大変立派に見え、背ものびたと思えたので、そのことを云った。順平は料理場用の高下駄をはいているので高く見えたのだった。二十二歳の文吉は四尺七寸しかなかった。順平は九寸位あった。順平は柿をむいて見せた。皮がくるくると離れ、漆喰に届いたので文吉は感心し、賞めた。
その夜、婚礼の席がおひらきになるころ、文吉は腹が痛み出した。膳のものを残らず食い、酒ものんだからだった。かねがね蛔虫を湧かしていたのである。便所に立とうとすると、借着の紋附の裾が長すぎて、足にからまった。倒れて、そのまま、痛い痛いとのた打ちまわった。別室に運ばれ、医者を迎えた。腸から絞り出して夜着を汚した臭気の中で、順平は看護した。やっと、落ち付いて文吉が寝いると、順平は寝室へ行った。夜は更けていて、もう美津子は寝こんでいた。だらしなく手を投げ出していた。ふと気が付いてみると、阿呆んだら。順平は突きとばされていた。
あくる朝、文吉の腹痛はけろりと癒った。早う帰らんと金造に叱られるといったので、順平は難波まで送って行った。源生寺《げんしょうじ》坂を降りて黒門市場を抜け、千日前へ行き出雲屋へはいった。
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