ような問い方をした。尼になる気持で……などと云うたら口を縫いこむぞといいきかされていた美津子は、いけしゃあしゃあと、わてとあんたは元から許嫁やないのといった。二親はさすがに顔をしかめたが、順平はだらしなくニコニコして胸を張り、想いの適った嬉しさがありありと見えて、いやらしい程機嫌を誰彼にもとった。阿呆程強いもんはないと叔母はさすがに烱眼だった。
婚礼の日が急がれて、美津子の腹が目立たぬ内にと急がれたのだ。暦を調べると、良い日は皆目なかったので、迷った挙句、仏滅の十五日を月の中の日で仲が良いとてそれに決められた。婚礼の日、六貫村の文吉は朝早くから金造の家を出て、柿の枝を肩にかついで二里の道歩いて、岸和田から南海電車に乗った。難波の終点についたのは正午頃だったが、大阪の町ははじめてのこと故、小一里もない生国魂神社前の丸亀の料理場に姿を現わしたのは、もう黄昏どきであった。
その日の婚礼料理に使うにらみ鯛を焼いていた順平が振り向くと、文吉がエヘラエヘラ笑って突っ立っていた。十年振りの兄だが少しも変っていないので直ぐ分って、兄よ、わりゃ来てくれたんかと順平は団扇をもったまま傍へ寄った。白い料
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