う存分個性的表現を発揮させるがよい。けなすのは、そのあとからでもよい。由来、この国の人は才能を育てようとしない。異色あるものに難癖をつけたがる。異分子を攻撃する。実に情けない限りだ。もっとも甘やかされるよりも、たたかれる方が、たたかれた新人自身を強くすることもある。僕は処女作以来今日まで、つねにたたかれて来た。つねに一言の悪罵を以て片づけられて来た。僕の作品はバイキンのようにきらわれた。僕は僕の作品の一切の特徴を捨ててしまおうと思った。僕がけなされている時、同時にほめられている作家のような作品を書いてやろうとさえ思った。そのような作品を書くことは、僕には容易であった。しかし、また僕は思った。あんな作品がほめられているような文壇や、あんな作品に感心しているような人から、けなされて、参るのは情けないと。僕はたたかれても、けなされても、平気で書きつづけた。そして今日もなおその状態が変らない。僕は相変らずたたかれて、相変らず何くそと思って書いている。闘志で書いているようなものだ。東京の批評家は僕の作品をけなすか、黙殺することを申し合わしているようだ――と思うのは、僕のひがみだろうが、しかし、僕
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