髪
織田作之助
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)悍《かん》婦に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)トガキ[#「トガキ」に傍点]によれば
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一
マルセル・パニョルの「マリウス」という芝居に、ピコアゾーという妙な名前の乞食が出て来るが、この人物はトガキ[#「トガキ」に傍点]によれば「この男年がない」ということになっている。若いのか年寄りなのかわからぬからである。
「してみれば、私もまた一人のピコアゾーではあるまいか。最近の私は自分の名前の上に「この男年がない」という形容詞句を冠せてもよいような気がするのである。年があるということは、つまりそれ相当の若さや青春があるという意味であろう。が現在の私はもはや耳かきですくう程の若さも青春も持ち合せていないことを心細く感ずるばかりである。いや現在といわず二十代の時ですら、私は若さを失っていたようである。私が二十代の時に書いた幾つかの駄小説は、すべて若さがないと言われていた。だから、世間で私のことを白髪のある老人だと思い込んでいる人があったにしても、敢て無理からぬことであ
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