、誇張だ。載っていない日があるからだ。
 今朝の新聞には載っていた。細君が逃げてしまっても、身上相談欄はちゃんと彼の傍にいた。その欄を読むという習慣は、実は細君の影響だが、細君がいなくなっても、この習慣だけはヒロポン注射同様逃げてしまわない。
 だから、坂野はまずヒロポンを二CC打った。それから今日の身上相談欄を読んだ。そして、改めて細君に逃げられたことを想い出して、ふんがいした。
「問――私の出征中、妻は、御主人は前線から帰りませんよという一巡査の言葉に偽られて、不倫の関係に陥り、ついに子供まで出来てしまったのでした。
 その上相手は私の勤務先の手当や、子供の貯金まですっかり消費してしまい、終戦となるや、私の復員をおそれて無籍の嬰児を連れたまま行方をくらましてしまいました。妻も今では、捨てられたと詫びて、苦しんでおりますが、このような相手が公職にいるとは、国家のためにも許されないと思います。また連れて行った赤ん坊について調査の方法はないものでしょうか。赤ん坊は相手の意に従ってまだ籍が入れてありません」
「答――戦争はそれ自体が悲劇ですが、その悲劇に巻き込まれた国民の生活、これは最も悲
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