惨で苦悩の深いものです。あなたの胸中をお察しします。同時に奥さんについても一概に不貞の妻としてかたづけてしまうのは、気の毒のように思います。
私どもは出征者の遺家族の生活というものを知りすぎるほど知っています。もし奥さんが前非を悔いておるなら許してあげて、再び平和な家庭をつくって下さい。
ことにお子さんたちの将来を考えるとき、私はそれを希望します。それにしても相手の巡査はけしからん奴です。遺家族とあれば一層保護を加うべき任にありながら、色と慾の二筋道をかけるなど実に言語道断です。
その男の勤務していた警察署に頼んで探し出し、厳重な処置をして貰って下さい」
読み終ると、坂野はいきなり、
「ばか野郎!」
とどなった。
二
その時、
「何が、ばか野郎なんだい……?」
と、にやにや笑いながら、木崎がドアをあけてはいって来た。赤い眼をしばだたいているのは、昨夜坂野に打って貰ったヒロポンが効きすぎて、眠れなかったのであろう。
「聴えましたか。――いや、なに、おたくに言ったわけじゃないです。一寸これ見て下さい。ひでえもんですよ」
坂野は新聞の身上相談欄を見せた。木崎は
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