外のものであるとは思えず、今日一日の行動がもはや必然的にきまってしまった。そして、その行動がひろがって行くありさまを、描きながら、さりげなく貴子にきいた。
「何時の汽車にするンや」
「急行だから、夜の九時頃でしょう」
「車よんでくれ。飯はいらん」
「あら、もうお帰り!」
「急ぐんや。君の友達によろしく。どうせまた会えるやろ」
 章三はにやりとした。


    身上相談


      一

 猫も杓子も新聞を読む。同じ記事を読んでいる。われわれが思っている以上に、猫の関心も杓子の関心もみな似たり寄ったりである。しかしまた、われわれが思っている以上に、猫も杓子も同じ問題に関心を抱いているとは限らないのだ。
 われわれが思っている以上に、ひとびとは一番さきに新聞の同じ欄を見るだろうし、また、われわれが思っている以上に、ひとびとが一番さきに見る欄は、それぞれ違っているのだ。
 たとえば、坂野という男は、まっさきに身上相談欄を読む。そのあとで、ほかの欄を読む――こともあるし、読まぬこともあるが、とにかく身上相談欄をまっさきに読むことだけは、一日も欠かしたこともない。もっとも、一日もというのは
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