えっ……?」
「ねえ、行ってくれはる……?」
甘えるように、体をすりつけて来た。
「でも、ここを逃げ出して行くわけにいかないわ」
「しかし、姉ちゃんは本当のブラックガールと違うさかい、明日になったら、すぐ出して貰えるわ。うちは泥棒したさかい、あかんけど、姉ちゃんは鳩やわ」
飛んで出るから鳩だというチマ子の声の明るさに、陽子もほっと心に灯がともって、
「じゃ、ここを出たら、あんたの使をしてくれというわけね」
「モチ、コース……」
モチは勿論のモチ、コースはオヴ・コース(勿論)のコース。綴り合せて、モチの論よという意味らしい。
「――うち、刑事にきかれても、あの写真機盗んだと白状せんつもりや。預かった品やと言うて頑張るつもりやねン」
「そんな嘘すぐはげるでしょう」
陽子が呆れると、チマ子はじれったそうに、
「――そやさかい、行ってくれと頼んでるんやないの。その人の所へ行って、あの写真機はうちに預けた品やということにしてくれと、姉ちゃんから説き伏せてくれたらそれでええやないの」
「ふーん。でも、その人うんと言ってくれるかな」
「ええおっちゃんやさかい、うちを助けてくれはるやろ。一寸こ
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