なくなる時は、それよりも早く来るのではなかろうか。
女が女である限り、どんなに醜くても、汚くても、たとえ五十を過ぎても、男相手に稼いで行ける――というお春の自信も、病気のまわった体を思えば、にわかに心細い。
「みんな、わてみたいになるンどっせ。しまいには、骨だけしか売るもンがない」
あーあとお春も奇妙な溜息をついたが、もうだれも笑わず、何かしーんと黙って、うなだれてしまった。
チマ子はしかしキラッと眼を光らせて、いきなり陽子の耳に口を寄せて来た。
「姉ちゃん、うちの頼み、きいてくれはる……?」
八
「きいてあげてもいいわ」
陽子は、チマ子のささやきを耳になつかしく感じながら微笑した。
「兵児帯のおチマ」と名乗る不良少女などにふと、男心めいたなつかしさを抱くとは、留置場にいれば人恋しくなるせいだろうか。
いや、不良少女らしく見えないという点にむしろ陽子の興味は傾いたのだ。一つには、チマ子が盗んだのが写真機だという点にも、ひそかな好奇心はあった。
「ほんまに、きいてくれはる……?」
「ええ、どんなこと……?」
「うちが写真機盗んだ人の所へ行って来てほしいねン」
「
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