いやねえ――と、わざと若い声を出しながらスタンドの青い灯だけ残して、あかりを消したが、章三はいつになく執拗になおもからんで、
「しかし、憎まれる方がおれはうれしいよ。好かれるためなら、何も二百万円君に貸すもんか。女は佃煮にするくらいいる。東京では紅茶一杯の女もいるということやが、女の地位は上った代りに、相場は下ったもンや。その点、おれに担保、証文、利子、期限なしで二百万円出させた君は大したもンや。しかし、おれが君に金を出したのは、実は君から薄情冷酷という証文を取りたかったからや」
 そして、にやりと冷笑をうかべて貴子を見た。自尊心のかたまりのようなその眼を貴子は全身で受けとめていた。章三はつづけた。
「――君は、男というものは見栄坊だから、虚栄心をつつけば、けちと思われるのがいやさに、しぶしぶ金を出すものと心得ているらしいが、しかしおれはしぶしぶじゃなかった。喜んで出したぜ。君のような女には、そうするのが一番君を……」
 侮辱することになるのだと、言いかけた時、玄関から若い女の声が聴えて来た。
「乗竹さんいらっしゃるでしょうか」
 陽子だった。

      七

 春隆を訪ねて来た
前へ 次へ
全221ページ中53ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング