だった。が、木崎はそれ以上きく興味もなく、
「もう寝ろ!」
と、押入れから蒲団を引き出した。
娘は急に固い表情になって、木崎の動作を見つめていた。
四
その固い表情に、木崎はふと女を感じながら、夜具を敷こうとすると、娘ははっとしたように飛び上って、部屋の隅へ後ろ向きに立った。
六畳のうち、二畳は暗室に使っているので、狭い。だから、夜具を敷く邪魔にならぬように起ち上って隅の方へ寄った――という風に考える方が自然だろうが、やはり飛び上ったと感じたのは、木崎の思いすごしだろうか。
「家出してから、どのくらいになるんだ」
木崎はふときいてみた。
「十日!」
背中で答えた娘の、腰のふくらみへ、木崎はふと眼をやって、あわてて外らした。
浴衣に兵児帯という姿に、淡いノスタルジアを抱いたとはいうものの、胴をきゅっと細く緊めているせいか、一層まるみを帯びて見えた娘の腰に、木崎はその娘の十日間のくらしを想った。暗がりで借りる煙草の火。しかし、それは木崎の好色の眼ではなかった。むしろ、痛々しさと反撥を感じていたのだ。
外科手術台の女の姿態を連想したのだ。寝床、外科手術、若い女
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