の裸身。痛々しさの感覚!
 好んで外科手術を受ける女はなかろう。が、それを受けるのが病人の、いや女の悲しい運命だ。手術台に横たわった女のあきらめ! 強いられた自己放棄! 失神状態! 手術者へすがりつく本能、不安! そして、憎悪と恨み……。自虐の快感!
 目出たいと騒ぐ初夜の儀式は、メスの祭典だ。唯の祭典ではない。手術のメス! 女の生理の宿命的な哀れさは、木崎にはつねに痛々しかった。それというのも、亡妻の八重子への嫉妬が、女の生理に対する木崎の考え方を変えてしまったからではなかろうか。
 八重子は木崎と結婚する前に、二三の男と関係があった。が、それは八重子が進んで求めたのだとは考えられず、ダンサーという職業の周囲に張りめぐらされたワナに、弱気な八重子がひっ掛って、のっぴきならなくなったのだ――という風に木崎は思いたかったのだ。
 八重子はその頃十八か九だったという。相手の男は市井無頼の不良の徒であった。十八か九の何も知らぬ小娘と不良少年、何という残酷さだ!
 木崎が外科手術を連想したのも、一つにはその男たちへの得体の知れぬ憎悪からであったろう。しかも、八重子が逃れようと思いながら、いつか
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