がしょんぼりと、しかし顔だけはニイッと笑って、立っていた。
「帰らんのか」
「うん」
ペロリと舌を出した――のを見ると、木崎は思わず噴き出しそうになって、もう追いかえせなかった。娘はいそいそとはいると、
「木崎さん、ええ写真機持ったはンねンなア」
部屋の外に掛った木崎の名札をもう見ていたらしい。それには答えず、
「君は大阪だろう」
木崎も大阪人だけに、娘の言葉のなまりがなつかしかった。
「うん。焼けてん」
娘は暗室のカーテンへ素早い視線を送っていた。
「お父さんは……?」
「監獄……。未決に……」
はいっているのだと、ケロリとした顔で言ったが、ふと声を弾ませると、
「――未決にはいっていると、金が要るねン。差入れせんならんし、看守にもつかまさんならンし、……それに、弁護士は金持って行かなんだら、もの言うてくれへん」
そんな心配を、この娘がしているのかと、驚いて、母親はあるのかときくと、いきなり、
「お母ちゃん、きらいや」
と、その言葉のはげしさはなお意外で、ピリピリと動く痩せた眉のあたりを見ていると、
「――あんな妾根性の女きらいや。男ばっかし……」
こしらえているよう
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