るから……ではなかった。十七や八はざらだった。そして、そんな年頃の、いかがわしい女は、若さの持ついやらしさがベタベタとぬった白粉や口紅を、不潔に見せていたが、この娘の白粉気のない清潔な皮膚には、遠いノスタルジアがあった。
紫の御所車のはいった白地の浴衣に、紫の兵児帯――不良少女じみて煙草を吸っていても、何か中学時代のハーモニカの音を想わせた。
――といって、興味は感じなかった。ただ、帰れといわぬだけ、――いや、何一つ口を利かずに、ついて来るのに任せて、やがて、高台寺の道を清水の参詣道へ折れ、くねくねと曲って登って行くと、音羽山が真近に迫り、清閑荘というアパートが、森の中にぽつりと建っていた。
門燈の鈍い灯りのまわりに、しんとした寂けさが暈のように渦を巻いていて、にわかに夜の更けた感じだ。
木崎は遠くから指して、
「あそこだ、おれのアパートは……」
と、はじめて口を利いた。
「――君の家はどこだ。まさか、あの山の中でもないだろう。帰れ!」
「そんなン殺生や。こんなとこから……」
「怖くて帰れんのか。ついて来るのがわるいんだ。幽霊は出んから、走って帰れ!」
「おっちゃん、アパート
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