た。

      二

「おっちゃん、煙草の火貸してんか」
 ドスンドスンと歩いていた木崎の前に、娘はバスガールのように足をひらいて、傲然と立ちはだかった。
 声も若かったが、木崎がライターの火をつけると、まだ大人になり切らない娘の顔が、ぱっと白く浮び上り、十七か八であろう。
 しかし、娘は三十芸者のように、器用に火をつけて、
「おっちゃん、どこまで行きはるのン……?」
 と、きいて、アパートへ帰るんだ――という返辞もまたず、煙をふきだしながら、ついて来た。
「まだ、何か用か……?」
「夜道は物騒やさかい、そこまで送って行ってくれたかテ、かめへんやろ」
「そこまでって、どこまでだ……?」
「おっちゃんは……?」
「清閑寺の方だ」
「うちもその辺や」
「嘘をつけ!」
 と言おうとしたが、木崎はだまって娘と肩を並べて円山公園を抜けると、高台寺の方へ折れて行った。
 三条大橋、四条大橋、円山公園に佇む女は殆んどいかがわしい女ばかりだ――と、噂にもきき、目撃もして来たから、すぐにそれと直感したが、しかし、ふと、そうとも決め切ってしまえない感じが、その娘のどこかにあったせいだろうか。
 若すぎ
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