ど、章三をギョッとさせたものはなかった。
振り向くと、デッキの隅にすらりと立って、章三の顔をしずかに見ていた。あえかな微笑だった。褐色味を帯びた瞳が、青く底光る眼の中に、ぱちりと澄んで、何かうるんだような感触が、その瞳から迫り、ふと混血児のようであった。そして、その瞳が、
「あなたは今人殺しをしたのでしょう……?」
と、章三の心の底を覗き込んでいた。
美貌というものがもし生れつきのものであるなら、いかなる運命がこの女にそんな美貌を与えたのかと思われるくらい、その女は美しかった。そしてまた、美貌というものが才能であるならば、いかなる才能でこの女はこんなに美しく見えるのかと思われるくらいだった。
「おれはいま生れてはじめて、女と対決しているのだ!」
章三はその女の顔をじっと見つめながら、そう思った。
九
読者はこの物語の最初の小見出しが「登場人物」となっている理由を、もはや察したであろう。
章三が見知らぬ男をデッキから汽車の外へ突き落した現場を目撃していた女――これが新しい登場人物なのだ。章三の人生にとっても、またこの物語にとっても……。
さて、新しい登場人物
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