かし、せっかくの満貫(マンガン)直前の気分を、そんなことでこわしたくなかったのだ。親の死目に会えぬマージャンの三昧境であった。
「五万」か「八万」のパイで上りだった。しかし、キャッキャッ団の三人はさすがに「万」パイは警戒して、自分たちの手をくずしてまで「万」パイを押えていた。だから、京吉はツモって上るよりほかに仕方がなかった。
「よしッ、ツモってみせる!」
京吉の眼はギラギラと輝いていた。ダンスを踊らせても、玉を突かせても、マージャンを打たせても、何をやらせても、京吉は天才的な巧さを発揮したが、とくにマージャンの場合、京吉の巧さとは、いざという時には、無理なパイでもツモってみせるという闘志と勝負運の強さだった。
そして、そんな瞬間だけ、生き甲斐を感ずるのだった。
二十三歳という若さでありながら、何ごとにも熱中することが出来ず、倦怠した日々を送ってる京吉にとっては、日々の行動は単なる気まぐれでしかなく、たとえば、靴磨きの娘を連れての放浪や東京行きの思いつきも、マージャンで旅費を稼ごうという思いつきも、その相手にわざわざキャッキャッ団を選ぶという思いつきも、みんな、どうでもいい、気ま
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