いであろうと、もう陽子にはその願いをききとどけてやることが、木崎のせめてもの愛情の表現であった。触れたいということのない愛情であった。
「実は……」
と、陽子もチマ子のことづけを伝えて、
「――警察へそういって助けてやっていただけます……?」
木崎はだまって、うなずいた。やがて陽子は起ち上った。
「おや、もう……」
帰るんですかと、木崎の顔には瞬間さびしい翳が走った。
「いずれまた……」
陽子は階段を降りて行きながら何かしらもう一度このアパートへやって来ることがありそうな気持に、ふっとゆすぶられていた。
キャッキャッ団
一
「間抜けたポリ的(巡査)もあったもんだ。おれを樋口だと思いやがるんだよ。円山公園感じ悪いよ。うっかり女の子連れて歩くと、ひでえ眼に会う」
祇園花見小路のマージャン倶楽部「祇園荘」で、パイを並べながら、言っていた京吉もやがて鉛のように黙り込んでしまった。
相手はグッドモーニングの銀ちゃん、投げキッスの泰助、原子爆弾の五六ちゃん――この三人は、マージャン倶楽部専門の不良団で、キャッキャッ団と称し、いつも三人一組で市中のマージャン倶
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