ません」
 陽子と同じ返事をしたのは、皮肉ではなかった。陽子は暫らくだまっていたが、やがて、
「なぜ、わたくしをおうつしになられましたの……?」
「その理由も、今は言えません」
「…………」
「それより、あなたはなぜダンスなどしているんです」
 木崎はいらいらした声になっていた。
「生活のためです」
 陽子もむっとしていた。
「ダンサーをしなければ食えないんですか」
 追っかぶせるように、木崎は言って、陽子をにらみつけた。

      五

 木崎ににらみつけられて、陽子の眉はピリッと動いた。自尊心が静脈の中をさっと走ったようであった。
「じゃ、おききしますが、ダンサーになってはいけないんですか」
「いけない!」
 木崎は思わず叫んでいた。
「なぜ、いけないんですの」
「…………」
 咄嗟に木崎は答えられなかった。持論だが、言葉にはならなかったのだ。なぜ、いけないのか、その理由はこれだと、昨夜うつしたホール風景の写真――陽子の後ろ姿の、ふと女体の醜さを描いた曲線を、見せるよりほかに、致し方のないものだった。
「あなたはダンサーという職業を軽蔑してるんでしょう……?」
「軽蔑……?」

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