結びついていたように……。なぜ、ダンスなどするのかと、それが悲しかったのだ。むりやり悲しんでいたのだ。そして、ますます重く沈んでいた。
「――お願い二つございますの。どちらも無理なお願いですの。きいていただけるでしょうか」
「とにかく伺いましょう」
 木崎はじっと陽子の眼を見た。陽子も木崎の眼を見た。眼と眼とが触れ合ったが、しかし、陽子の眼は何一つ語っていなかった。木崎の眼の熱っぽさにくらべて、陽子の眼は取りつく島がないくらい、冷やかであった。眼は触れても、心は通わず、若い女というものは若い男と二人いる場合たいてい無意識のうちに恋愛へのスリルを感じている――という俗説に反撥するような、冷やかな無関心に陽子は冴え切っていた。
 だから、言葉は事務的であった。
「実は、昨夜十番館でおうつしになったフィルムを、わたくしにいただきたいのです」
「なぜ……?」
「理由は申し上げたくございませんの。言えませんの。――理由を申し上げなくっちゃ、フィルムをいただけないでしょうか」
「いや、きいてもきかなくても同じ事です。お譲りすることは、どんな理由があっても、出来ません」
「なぜ……?」
「理由は言え
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