英語を使って断ろうとしたが、結局写された。が、その代り、彼等はお礼の意味で、ジープで送ってやろうと言ってくれた。
陽子は草履ばきで歩くみじめさからやっと救われた想いで、ジープに乗った。そして、そんな一寸した騒ぎのおかげで、到頭交番所の中にいる京吉には気がつかなかった。
しかし、気がついても声を掛けたかどうか。――ジープはやがて清閑荘の前に着いた。
二
自動車を降りようとした時、陽子は、
「あなた、ダンス出来る……?」
ときかれて、うなずくと、
「じゃ、こんどの日曜日、パーティに来ません……?」
自動車のマダムたちは、陽子が気に入ったらしかった。ブロークンの英語が喋れるという点も彼女らには珍らしかったのであろう。
「ありがとう。もし行けましたら……」
辞退のつもりで陽子は言ったのだ、が彼女らには、承諾の意味に聴えたらしく、ここへアドレスを書けと、手帳を出された。
「ノー・サンキュウ!」
と、はっきり断るには、陽子は余りに日本人であった。とにかく、アパートの所を書いて渡すと、
「こんどの日曜日、夕方の五時に、このアドレスの所へ、自動車で迎えに行きます。よくって
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