ら、もう京都にいないとそう言って置いてくれって、女の子と出て行きましたわ。おほほ……」
 けたたましい笑い声は、セントルイスのマダムの夏子の癖であったが、陽子はそんなことは知らずあざ笑われたように思った。
 電話が掛かることを承知していながら、わざと「女の子」と出てしまうなんて、ばかにされたような気がした。
「いいわ」
 もう京ちゃんなんかと二度と口をきくものか、靴なんかどうでもいい、はだしで歩く――と、陽子は真青になって警察を飛び出しかけたが、しかし、まさかはだしで歩けない。警察の小使が草履を貸してくれたので、それをはいて、出ると、その足ですぐ木崎を訪ねることにした。
 茉莉のアパートへも寄らなかったのは、チマ子に頼まれた用事を少しでも早く果さねばと思ったからであった。もっとも、木崎には陽子自身も会わねばならぬ用事があった。
 ところが円山公園まで来ると、占領軍の家族から写真を撮らせてくれと言われた。
「あたしは昨夜から写真ばっかり撮られている」
 悲しい偶然だと呟きながら、改めて草履ばきのみじめさに赧くなって、
「ノーノー。アイム・ソリイー。エキュスキューズ・ミイ」
 ブロークンの
前へ 次へ
全221ページ中118ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング