握手した。木崎はふと顔をそむけて、自分だけがひとり女の弁護にまわりたい気になっている矛盾を、煙草のけむりと一緒に吐きだしていた。しかし、坂野が、
「ねえ、木崎さん、あたしゃ、絶対許しませんよ。許してやれなんて、身上相談の解答こそ、まさに許しがたいと思いませんかね」
と、言うと、はや木崎はいつもの木崎であった。
「いや、こんな解答が平気で出来るという点が、身上相談担当の重要な資格になるんだよ。いちいち、質問者の心理の底にまではいっておれば、結局解答者は失格さ。警察へ届けて姦夫を処罰して貰え、女房は許してやれ。――こんなお座なりの解決で気が済むなら、誰も身上相談欄へ手紙を出すもんかね。財布を落しても、今時、警察へ届けろなんて、月並みなことを言う奴はいないよ。姦夫を処罰して貰ったって、悩みは残るさ。前非を悔いているから、許してやれ――か。ふん。学問が出来て、社会的地位があっても人間のことは、何にも判ってないんだ。ねえ、君、そうだろう」
木崎は京吉の方を向いた。
「おれ、そんなことどうだっていいや」
京吉は舌の先についた煙草の滓をペッと吐き捨てて、
「それより、坂野さん、おれにヒロポン打
前へ
次へ
全221ページ中105ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング