ってくれ。それで来たんだよ」
 と、腕を差し出した。

      四

「ヒロポン……? よし来た。ここン所坂野医院大繁昌だね」
 坂野はにやりと木崎の顔を見ながら、ケースの中からヒロポンのアンプルを取り出し、アンプル・カッターを当てて廻すと、まるで千切り取るように二つに割った。ポンと小気味のよいその音は逃げて行った細君へ投げつける虚ろな挑戦の響きの高さに冴えていた。
 興奮剤のヒロポンは、劇薬であり、心臓や神経に悪影響があるので、注射するたびに寿命を縮めているようなものであった。しかし、不健全なものへ、悪いと知りつつ、かえって惹きつけられて行くのがマニヤの自虐性であり、当然アンプルを割る音は頽廃の響きに濁る筈だのに、ふと真空の虚ろに澄んでいるのは、頽廃の倫理のようでもあった。
 だから、坂野はうっとりとその余韻をたのしみながら、
「――京ちゃんもいよいよわが党と来たかね。毎日でも打ってやるよ」
「いや、今日だけでいいよ。注射、痛いだろう……? おれ趣味じゃねえや。痛くないやつやってくれよ。ねえ、たのむよ。ねえ、痛いんだろう。しかし、痛くってもいいや。今日は特別だから。麻雀に勝てれば
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