、じゃ、一緒に寝ンねしようや――なんて言わない。夜が更けりゃ泥棒だって眠いや。辛抱、辛抱! 今夜のうちにあげてしまわなくっちゃ、明日の初日は開かんよ――ってね、実にこれ芸人の真随でさアね。すると、奴さん、眠くってたまらないのよ、ヒロポン打って頂戴! よし来た、むっちりした柔い白い腕へプスリ……、これがそもそも馴れ染めで、ヒロポンが取り持つ縁でさアね」
「じゃ、あんたのヒロポンは承知の上じゃないか」
「そうなんですよ。今更ヒロポンがどうの、こうの……。何言ってやがんだい。男が出来て逃げたに違えねえですよ。どこの馬の骨か知らねえが、ひでえ男だ。まるで、この警官でさアね」
と、新聞を指して、
「――捨てられて、孕まされて、ポテ腹つき出して、堪忍どっせと帰って来たって、あたしゃ、承知しませんよ」
「しかし、そりゃ一寸気を廻し過ぎじゃないかな」
「いや。てっきりでさア。賭けてもいいね」
百パーセントそれでさアねと、坂野が言った時、アパートの階段を登る足音が、
「見よ、東海の朝帰り……」
という鼻歌と一緒に聴えて来た。
三
「坂野さん」
京吉は部屋の前まで来ると、馴々しい声
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