と無茶苦茶なほめ方だった。
ローゼンシュトックは、
「あの子は悪魔の子だ」
と、呟いた。
相手が十三歳の子供だというので、ほめる方でも子供のように、落ち着きを失っていた。
庄之助が懐の金を心配しながら、寿子と二人で泊っていた本郷の薄汚い商人宿へは、新聞記者やレコード会社の者や、映画会社の使者や、楽壇のマネージャー達がつめかけた。
彼等は異口同音に「天才」という言葉を口にした。すると、庄之助は何思ったか、急にけわしい表情になって、
「天才……? 莫迦莫迦しい。天才じゃありません。努力です。訓練です。私はもう少しでこの子を殺してしまうところでした。それほど乱暴な稽古をやったのです。ところが、この子は運よく死ななかっただけです。天才じゃありません。寿命があったんですよ。それだけです」
食って掛るような口調だった。そんな口調のかげには、かつて自分の稽古がきびし過ぎたために、弟子が寄りつかなくなったという想出の恨みが、籠っていた。「津路式教授法」を不当に扱って来た世間というものに対する反逆心も含まれていた。そしてまた、寿子がもし天才だけで現在のようになったとすれば、この数年間、自分
前へ
次へ
全18ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング