ているように感じられるその行儀の悪い弾き方は、庄之助が寿子のような小柄な体格でどうすれば強い音を出すことが出来るだろうかと、考えた末の弾き方であったが、しかし審査員達はそんな意味には気づかず、乗合自動車の女車掌のような寿子の姿勢に、思わず苦笑した。しかし、やがて豪放な響きが寿子のヴァイオリンから流れ出すと、彼等の表情は一斉に緊張した。彼等には今自分たちの前で「ラフォリア」を弾いている人間が、お河童の十三歳の少女であるとは、もはや信じきれなかった。
コンクールの成績が発表されると、寿子は第一位になっていた。第二位との開きが大き過ぎて、主催者側では普通の賞では寿子にふさわしくないと思う位だった。そこで、あわてて文部大臣賞というものを特に作って、それを寿子に与えることにして、主催者側はやっと満足した。それほどの素晴しい出来栄えだったのである。
審査に立ち合ったクロイツァーは、
「自分は十三歳のエルマンの演奏を聴いたことがあるが、エルマンはその時、この少女以上にも、以下にも弾かなかった」
と、激賞した。また、レオ・シロタは、
「ハイフェッツにしても、この年でこの位弾けたかどうか疑問だ」
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