ある。私はうぬぼれかも知れないが、オー・ヘンリーやカミやマーク・トゥエーンよりはましな小説が書けると思っている。
私がマーク・トゥエーンに注目しているのは、だから彼の小説に関してではない。マーク・トゥエーンは一日に四十本の葉巻を吸った。そのことに注目しているのである。が、これとても大したことはない。私は一日に百本の煙草を吸っている。多い日は百三十本吸ったこともある。その点では、マーク・トゥエーンには負けないつもりである。しかし、
「煙草について、私の唯一の制限は……」
云々という彼の名文句には、さすがの私も参った。
私は一日に六十本よりすくない煙草を吸ったことは殆んど稀である。余程の事情のない限り、毎日百本の煙草を吸っている。しかも、私は煙草についてマーク・トゥエーンのような名文句を書いたことはない。
思うに、マーク・トゥエーンは煙草の豊富な、安く、容易な入手できる時代に生れて、そして死ぬまでその状態がかわらなかった。これに反して、ここ二三年の私の生活は、いかにして一日一日の煙草を入手するかという努力に終始していた。煙草について気の利いた名文句を考えている余裕などなかった。だか
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