。そんなに煙草がうまいわけでもない。しかし、私はいつまでも寝床の中で吸っている。中毒といってしまえば、一番わかりやすいが一つにはもし、私にも生きるべき倦怠の人生があるとすれば、私は煙草を吸うことによってのみ、その倦怠の人生を生きているのかも知れない。私が煙草を吸わなくなれば、もう私には生きるべき人生もない。煙草を吸わなくなれば! というのは私にとっては絶対に禁煙を意味しない。私は一生禁煙しようと思わぬし、思っても実行出来る私ではない。煙草が吸えなくなれば、私は何をしていいのだろうか。恐らく気が狂うか全くの虚脱状態になってしまうだろう。
起きなければ、起きなければと思いながらも一本と吸っている時の私は、自分の人生を無駄に浪費しているわけだが、しかしそのような浪費のずるずるべったりの習慣の怖しさをふと意識した瞬間ほど、私は自分のデカダンの自虐的な快感を味わう時はないのだ。その一本の為に、私は試験に遅刻した。遅刻するとわかりながら、吸っていた。かけつけた時は、もう試験は終っていた。私は落第し、それがたび重なって、到頭学校を棒に振ってしまった。
してみれば、私は煙草のために学校を棒に振った
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