大阪発見
織田作之助

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)夫婦《ふたり》一緒に

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)蝉|脱《ぬけ》皮

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#は「鼠+晏」、第3水準1−94−84]
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    一

 年中夫婦喧嘩をしているのである。それも仲が良過ぎてのことならとにかく、根っから夫婦《ふたり》一緒に出歩いたことのない水臭い仲で、お互いよくよく毛嫌いして、それでもたまに大将が御寮人さんに肩を揉ませると、御寮人さんは大将のうしろで拳骨を振り舞わし、前で見ている女子衆《おなごし》を存分に笑わせた揚句、御亭主の頭をごつんと叩いたりして、それが切っ掛けでまた喧嘩だ。十年もそれが続いたから、母屋の嫂もさすがに、こんなことでこの先どないなるこっちゃら、近所の体裁も悪いし、それに夫婦喧嘩する家は金はたまらんいうさかいと心配して、ある日、御寮人さんを呼寄せて、いろいろ言い聴かせた末、黒焼でも買いイなと、二十円くれてや
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