手入れのことを「警報」という隠語で伝達しているのである。どんなに極秘にされた抜打ちの手入れでも、事前に洩れる。これが「警戒警報」だ。当日いよいよ手入れが始まると、直ちに「空襲警報」が飛ぶというわけだ。
右の六月十九日の検挙は、曾根崎署だけでなく、府下一斉に行われ、翌日もまたくりかえされたのだが、梅田でもやはり「警報」が出た。しかし、さすがに逃げおくれた連中がいて、押収された煙草は二日間合計して、十五万本だということである。
逃げおくれた連中だけで十五万本、だから大阪全体でどれだけの横流し(などといやらしい紋切型言葉だが)の煙草があるか、想像も出来ないくらいだ。
ある皮肉屋が言っていた。
「近頃刻み煙草の配給しかないのは、専売局で盗難用の光やきんしを倉庫にストックして置かねばならぬからだ」と。
更に、べつの皮肉屋の言うのには、
「七月一日から煙草が値上りになるのは、たびたびの盗難による専売局の赤字を埋めるためだ」と。
それほど盗難が多いし、また闇商人が語っているように、横流しが多いのだ。そして、それが闇市場でまるで新聞を売るように堂堂と売られて、まるで新聞を買うように簡単に人人
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