が買って行くのが大阪なのだ。
奇妙なことには、この闇煙草の値は五つの闇市場を通じて、ちゃんと統制されているが、日によって異動がある。つまり相場の上下がある。そして、その相場はたった一人の人間(つまり親分)が毎朝決定して、その指令が五つの闇市場へ飛び、その日の相場の統制が保たれるらしい――という話を、私はきいたが、もしそうだとすれば、そのたった一人の人間の統制力というものは、この国の政府の統制力以上であり、むしろ痛快ではないか。
三
私は目下京都にいて、この原稿を書いているが、焼けた大阪にくらべて、焼けなかった京都の美しさは悲しいばかりに眩しいような気がしてならない。
京都はただでさえ美しい都であった。が、焼けなかった唯一の都会だと思えば、ことにみじめに焼けてしまった灰色の大阪から来た眼には、今日の京都はますます美しく、まるで嘘のようであり、大阪の薄汚なさが一層想われるのである。
月並みなことを月並みにいえば、たしかに大阪の町は汚ない。ことに闇市場の汚なさといっては、お話にならない。今更言ってみても仕様がないくらい汚ない。わずかに、中之島界隈や御堂筋にありし日の大阪
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