を挙げているが、たしかにくりかえされる紋切型は笑の対象になるだろう。滑稽である。レヴュの女優の科白廻しなども、軽佻浮薄めいているからいけないというのではない。私はジンメルの日記に「人は退屈か軽佻か二つのうちの一方に陥ることなくして、一方を避けることは出来ない」という言葉を見つけた時、これあるかなと快哉を叫んだくらいだから、軽佻を攻撃する気は毛頭持ち合わせていない。レヴュ女優の科白廻しに辟易したのは、その紋切型が滑稽であったからである。ほかにもっと言い廻しようがあろうと思ったのである。しかし紋切型というものはファンに言わせると、紋切型であるために一層魅力があるのかも知れない。レヴュのファンはあの奇妙な科白廻しの型に憧れているのであろう。

      二

 レヴュ女優の紋切型に憧れて一命を落した娘がある。
 もう十年も昔のことである。千日前の大阪劇場の楽屋の裏手の溝のハメ板の中から、ある朝若い娘の屍体が発見された。検屍の結果、死後四日を経ており、暴行の形跡があると判明した。勿論他殺である。犯行後屍体をひきずって溝の中にかくしたものらしい。
 身許を調べると、両親のない娘で、伯母の家に引
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