き取られていたのだが、レヴュが好きで、レヴュ通いを伯母にとがめられたことから伯母の家を飛び出し、千日前の安宿に泊って、毎日大阪劇場へレヴュを見に通っていたらしいと判った。不良少年風の男と一緒に歩いていたのを見たと言う人があり、警察では加害者をその男だと睨んで、千日前界隈の不良を虱つぶしに当ってみたが、遂に犯人は見つからず、事件は迷宮に入った。そして十年後の今日に到るも、なお犯人は見つからず、恐らく永久に迷宮に入ったままであろう。
宿屋の女将にいわせると、所持金ももう乏しくなっていたらしく、身なりもよれよれの銘仙にちょこんと人絹の帯を結んだだけだというし、窃盗が目的でなく、また込み入った情事があったとも思えない。レヴュ小屋通いをしているところを、不良少年に目をつけられ、ひきずり廻されたあげく、暴行され、発覚をおそれて殺されたのであろう。
「うちにもチョイチョイ来てましたぜ。いや、たしかにあの娘はんだす」
事件が新聞に出た当時、「花屋」という喫茶店の主人はそう私に言った。
「花屋」は千日前の弥生座の筋向いにある小綺麗な喫茶店だった。「花屋」の隣は「浪花湯」という銭湯である。「浪花湯」は
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