なければならないという法はないよ。だから僕はわざとレインコートを着てやったのさ。彼等の蛮カラ振りは心からのものじゃないんだ。ありゃ見栄だよ。三高生という看板をかついで歩いているだけだよ。君は帽子を被っていないね。君は良いところがあるよ」赤井は上ずった声でそう言って、僕も脱ぐよと帽子を脱いだ。赤井に真似をされたので豹一は簡単に自尊心が温まった。
荒神口の方へ道を折れて行った。赤井はなおも興奮して一人で喋った。
「彼等は郷に入れば郷に従えといいやがるんだ。それは僕も知っている。しかし、彼等が郷に従うのは彼等の無気力のためだ。彼等の保身のためだ。けちくさい虚栄心のためだ。豚でも反吐を吐く代物だ」
豹一はふと中学生時代沼井からその言葉を言われたことを想い出して、苦笑した。にわかに赤井が自分の血族のようになつかしくなって来た。あの時、自分は撲られたが、赤井も撲られたのだ! しかし府立一女の寄宿舎の前まで来ると、急に豹一の顔色が変った。
「君|金《ゲル》持ってるか」と赤井に突然訊かれたのである。豹一は此の言葉に腹を立てるべきかどうか、ちょっと思案した。秀英塾の塾生は月に一円しか小遣を支給されな
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