おい、何しているんだ? こんなところで――」
赤井は顔中に微笑の皺をつくりながら言った。思い掛けず赤井の顔を見たことで、豹一はすっかり嬉しくなった。
「町へ行こうかどうしようかと考えているんだ」
「行こうか京極、戻ろか吉田、ここは四条のアスファルトだな」と、赤井は歌うように言って、「僕も行こうと思っていたところだ。どうだ、一緒に行かんか」
「行こう」
赤井を見たので、豹一は今夜の計画が容易く実行出来ると思った。寄宿舎の横の小門を出て、電車道伝いに近衛通の方へ肩を並べて歩きながら、豹一は、
「君は何故皆んなと散歩に行かなかったんだ?」
と訊いた。すると、赤井は急に背が伸びたような歩き方になって、
「僕は寄宿舎の連中が嫌いなんだ!」吐き捨てるように言った。そして、暫く黙っていたが、ふと引攣るような微笑を顔に泛べると、
「昨日僕は寄宿舎の連中に撲られたんだ。レインコートを着ているのが生意気だというわけさ」
なるほど赤井は紫色のレインコートをいまも着ている。
「なにも三高生が黒いマントを着て、薄汚い手拭をぶら下げて、高い下駄をはいて、蛮からな声で呶鳴って、みやびやかな京の町の風情を汚さ
前へ
次へ
全333ページ中69ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング