、頭の底が静まって、放心したような快いけだるさが感じられた。食べなれた漬物の味もなつかしかった。食事が終ると、豹一は再びオーバーを着た。
「どこへ行くねや?」
「社へ金もらいに行くねや」
「真っ直ぐ帰っといでや」
「大丈夫や」そう言って、家を出た。
 北浜二丁目で電車を降りて、東洋新報のビルの方へ歩き出しながら、豹一はさすがに浅ましい気がした。安二郎に渡す必要がなければ、おめおめ日割勘定のサラリーを貰いに行かないだろうと、思った。
 ビルの前の掲示板に、その日の夕刊が貼出されてあった。それをちらっと見ると豹一はもはや自分がここの社員ではないということがはっきりと意識され、こそこそと玄関をくぐった。
 会計へ出頭して、先月の中頃に退社したものだが、半月だけはたしかに出勤した故、もしや規程でその日割勘定でもらえることになっているのだったら、いま受け取りたいのだがと、半泣きの顔で早口に言うと、会計係は名前をきいて、
「あ、君のサラリーまだだったね。君、やめたの?」
 と、言いながら、褐色の俸給袋を渡してくれた。毛利豹一殿と殿をつけて表に書いてあるのを、なにか不思議なくらい鄭重に扱われた気持で
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