村口多鶴子はどうした? ――そんな顔せんといて頂戴んか。ちゃんと聴込みがあるんでっさかい。惚れてるか、惚れられてるか、そこまでは知らんがね」
「惚れてませんよ」
「じゃ、惚れられてるのか? いよいよ以てけしからん」そう言ったが、すぐ土門は、「あ、なるほどわかった」と、大声を出した。
「痴話喧嘩だね。そうだろう?」
 豹一は黙って体を動かした。
「痴話喧嘩ぐらいでくよくよするなよ。なんだ、あんな女。たかが村口多鶴子じゃないか」土門に言われて、豹一は、
「そうですよ。あんな女!」と、言って、こんにゃくをその気もなく口に入れた。口をもぐもぐ動かせながら浅ましい気持をしょんぼり噛んでいた。
「女優で想い出したがね」と、北山が口をはさんだ。「僕の友人で女優のプロマイドをうつすのを商売にしてる奴がいるんだ。そいつからきいた話だがね。そいつがね、浴衣の宣伝写真をうつすことになったんだ。いや、浴衣とはあんまり冬むきじゃないがね。しかし、まあ季節はずれと言えばね、その浴衣の宣伝写真はなんと五月頃にとるってからね。いや、こんなことはどうでも良いことだ。とにかく、奴さんその五月頃にだね、宣伝用の浴衣をもって
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