多鶴子は素早くそれを見つけて、「あ!」かすかに叫び声をあげた。
(あ、この人は……)インターヴィユを取りに来て一言も喋らなかったという点だけでも、記憶に残るに充分だった。(あの新聞記者だ!)咄嗟に想い出すと、多鶴子はなんのために豹一がそんなところへ現われたかを考える余裕もなく、突然身をひるがえすと、豹一の車へ駆け寄った。
「乗せて下さらない?」そして、返辞も待たずに、豹一の傍へ転り込むように飛び乗ってしまった。
 柔い腰の感触がいきなり豹一の体を敲いた。思わず身を避けた拍子に、強い女の香がぷんと鼻に来た。豹一は一層周章ててしまって、咄嗟に口も利けなかった。
「こら、待て! 待ちくさらんか!」驚いた佐古がそんな芝居掛った科白を、地金の柄のわるい調子で言った時、豹一の車は多鶴子を乗せたまま、再び深夜の街へ走り出していた。
 豹一も多鶴子も運転手に「走れ」と命じたわけではなかった。ただ運転手が咄嗟の機転を利かせたのだった。彼は豹一の顔から察して豹一を多鶴子の情人だと、簡単に決めていたのである。だから、命じられなくても、充分、心得ていたわけだ。

      五

「あ、そこで停めて頂戴」
 
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