小綺麗な洋風のこぢんまりした住宅の前まで来ると、多鶴子は車を停めた。
「ここですの。私の家……」そう言って、多鶴子はクッションから腰を浮かせながら、「どうもありがとうございました」
豹一に礼を述べかけた拍子に、(そうだ! この人を家へ案内しよう)だしぬけに思いついた。
謝礼の意味からいっても、その必要はあるわけだと思った。わざわざ送ってくれた人を、帰らすのは失礼にあたると、多鶴子は自分に言いきかせたが、じつはこのまま帰らすわけにはいかぬわけがほかにあった。今夜新聞にかかぬように頼むということが残っていたのだ。
「御迷惑でしょうが、寄って行って下さいません? 夜分のことでなんにもおもてなし出来ませんけれど……」多鶴子はそう言った。
そんなことを言われると夢にも思っていなかったから、豹一は不意打をくらった気持でぱっと赧くなり、
「いや、ここで失礼します」正直な返事だった。じつは豹一はここまで同乗して来るのさえも、窮屈で仕方がなかったのである。この上、家のなかまではいって息のつまるような気持を味わせられるのは真平だと思ったのだ。運転手が羨んだ車中も、豹一には長い道中だった。やっと車が停
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