ずくような期待から、さすがにぶるぶるふるえが来たのである。多鶴子は佐古の隙をうかがって逃げるという、映画的な場面を頭に描いた。
 運転手は直ぐ出て来た。そして、佐古に眼くばせして、扉をあけた。佐古は先に降りて、「どうぞ」と、莫迦ていねいに運転手の傍に立って、多鶴子を促した。
 じっとクッションの隅に身をすくめていることは、多鶴子の矜恃が許さなかった。多鶴子は黙ってうなずき、車の外へチョコレートの靴下に包まれたすんなりした足を伸ばした。佐古は身ぶるいした。蒼ざめた多鶴子の顔は、佐古の眼にも凄いほど美しく見えた。佐古はなんだか大それたことをしているような気がするほどだった。
 その時、豹一の車がぎいとにぶい音を軋ませて、辷りこんで来た。そして停った。
「あ、いかん、停めたらいかん!」豹一は思わず叫んでいたが、頓間な運転手は多鶴子の車を掴えることばかしに気を取られていたので、豹一がそう叫んだ時、既にまるで当然のようにブレーキを掛けてしまっていた。
(まずいところで停めやがった!)尾行して来たのをわざわざ知らせるようなものではないかと、豹一はいきなりオーバーの襟を立てて、顔をかくそうとしたが、
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