頓堀通を真っ直ぐ御堂筋へ出てナンバの方へ折れて行った。カーブした拍子に、多鶴子はちらと眼をあげて走っている方角をたしかめたが、すぐまたコンパクトを覗いた。つまり、そうして居れば、佐古の相手にならなくても済むのである。車は電車通に添うて日本橋筋一丁目の方角へ折れて行った。
 やがて車は日本橋筋一丁目の交叉点を霞町の方へ折れて行った。豹一の車もあとに続いていた。
 多鶴子の車が霞町から天王寺公園横の坂を登って行くと、佐古は、
「寒い、寒い、隙間風がはいって来よる」と、言い出した。そして、坂を登る動揺を防ぐために、半身乗り出して運転台の方へ寄り掛っていたが、いきなり、「そこを閉めてくれ!」といいながら、運転台の横の窓ガラスを閉める真似をした。真似をしたというのはじつははじめから閉っていたからである。その動作の咄嗟に、佐古は五円紙幣を運転手の膝の上へ落し、何やら囁いた。
 多鶴子はおやと思った。その瞬間、車は阿倍野橋まで来たが、彼女の住居のある帝塚山へ行くべく右へ折れずに、不意に左へ折れてしまった。迂回するためかと思ったが、車はそのまま真っ直ぐ天王寺の方へ走って行った。そのかすかなタイヤの軋み
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