ら、運転手の返辞も待たずに飛び乗った。オーバーの長い裾が邪魔になって、文字通り転ったが、しかし眼だけは多鶴子の車から離さなかった。
「早くやってくれ!」多鶴子の車が動き出したので、豹一は気が気でなかった。
 運転手はしかしのろのろと扉を閉めながら、
「どこまででっか?」
「何べん言わすんだ? あの車をつけてくれ。あの女の車」豹一は、こいつは耳が遠いんだと思うことによって腹立って来る気持を押えることにした。「早くやってくれ!」
「そない急《せ》かしたかて、前がつかえてまんがな」
「後へ下れば良いじゃないか?」豹一は到頭腹を立てた。
「後へ下ったら、二つ井戸まで行ってしまいまっせ。なんなら高津さんまで行きまひょか」
 ここで喧嘩していては、多鶴子の車を見失うと思ったので、豹一は、
「頼む、早くやってくれ!」と、下手に出た。この「頼む」という言葉でやっと動き出した。そして巧みに他の車の間を抜け出た。
「金はいくらでも出す!」この言葉をもっと早く言うべきだった。急にスピードが出た。そして、徐々に前方の車との距離を詰めて行った。豹一はほっとした。が、相かわらず中腰のままだった。
 多鶴子の車は道
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