あり、その時可愛がってくれた先生はアララギ派の歌人だった。因みに彼女はアンドレ・ジイドが愛読書だと、かつて映画雑誌のハガキ質問に答えたことがあった。
彼女は余っ程席を立とうかと、思った。そんな彼女を僅かに引止めたのは、豹一の少女のような睫毛の長い美しい顔だった。ぶくぶくのオーバーの下に大人に成りきらないきゃしゃな体がかくれているのかと思うと、彼女は本気になって腹を立てることも出来なかった。生毛まで赤くして、何か言おうと力んでいるさまを見ると、彼女は、ふっとおかしくなり、
「あのウ、社はどちらですの?」随分好意を示したのだった。
ところがその時豹一は、口も利けずにいる情けない状態から逃れ出るために、散々苦心した挙句、昼間新聞を見てむやみに彼女に腹を立てていた時の気持を無理に呼びおこして、(この女に口も利かないなんて、お前は軽蔑に価するぞ! なんだ、こんな女ぐらい……、じかに見れば年増じゃないか?)[#「年増じゃないか?)」は底本では「年増じゃないか?」」]と、ひそかに喧嘩腰になって、カッと眼を光らせていたところだった。だから、多鶴子の方から先に言葉を掛けられて見ると、物事にこだわり易
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