て、眉をひそめた表情になった。余り豹一が黙ってばかしいるので、多鶴子もいらいらして来たのである。しかし、豹一はなおも口が利けなかった。どんな風な質問をして良いのか、さっぱり見当がつかなかった――というよりも、むしろ気遅れがしていたので。
 多鶴子は莫迦にされているような気がした。無躾に質問される方が未だしもだと、思うぐらいであった。多鶴子はふっと顔をそむけて、窓の外を見た。道頓堀川の暗い流れに、「オリンピア」のネオンサインの灯影が歪《いびつ》になって、しきりに点滅していた。寒々としたながめだった。(なぜこんなところに働く気になったのだろうか?)改めてそのことが後悔された。昨夜から引続き、泣きたいぐらいの気持であった。自分の人気への自信や顧慮というものがなかったならば、とってつけたような笑い顔など、みじめ過ぎるところではないか。うかうかと佐古の甘言に乗ったという想いが強かった。彼女の教養はこの「紳士の社交場」に於ける自分の姿をきびしく批判していた。蝶々のように客席から客席へ飛びまわっている自分の姿を、先生が見たらなんと言うだろう? 中途退学だが、彼女は広島県のある女学校へ通っていたことが
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