多鶴子にすっかり惹きつけられてしまい、ある者は感嘆の余り異様に興奮し、佐古なんかに注意をはらう余裕なぞてんで無かったのであった。
大成功だった。彼女を招聘するために佐古が惜し気もなく使った機密費の額に最初文句をつけ通しだった経営者も、純白のイヴニングの裾さばきも軽やかな、匂うばかりの村口多鶴子を見た途端、慾も得も忘れてしまった。いや、それを想い出したところで、客止めの盛況を見ては、文句のなかったところだ。
「良え女子《おなご》を入れてくれたな」経営者は佐古に一言だけ感謝の言葉を与えた。
この一言がしかし佐古をぎくりとさせた。経営者の眼は多鶴子の胸から腰へ執拗に注がれていた。音を立てるような視線だった。(覘《ねろ》てけつかる)佐古はすっかり狼狽してしまった。
実は佐古が村口多鶴子を「オリンピア」に招聘するために涙ぐましいほどの努力をはらったのは、慾得をはなれた考えからであった。電機工をしていた頃、彼の菜っ葉服のポケットには村口多鶴子のプロマイドがはいっていたこともあった。といって、はじめのうちはべつに取り立てて彼女ひとりに憧れていたわけではない。たいていの美しい女優ならいちように心
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